シュリュウみたいな実権者は、不浄役人どもに黒死館の心臓を窺わせまいとしている。だからさ、あの男が鎮静注射から醒めた時が、事によるとこの事件の解決かもしれないのだよ」
法水は相変らず茫漠たるものを仄《ほの》めかしただけで、それから鍵孔に湯を注ぎ込み、実験の準備をしてから、演奏台のある階下の礼拝堂に赴《おもむ》いた。広間《サロン》を横切ると、楽の音《ね》は十字架と楯形《たてがた》[#「楯形」は底本では「循形」]の浮彫のついた大扉《おおど》の彼方に迫っていた。扉の前には一人の召使《バトラー》が立っていて、法水がその扉を細目に開くと、冷やりとした、だが広い空間を佗《わび》しげに揺れている、寛闊な空気に触れた。それは、重量的な荘厳なもののみが持つ、不思議な魅力だった。礼拝堂の中には、褐《あか》い蒸気の微粒がいっぱいに立ち罩《こ》めていて、その靄《もや》のような暗さの中で、弱い平穏な光線が、どこか鈍い夢のような形で漂うている。その光は聖壇の蝋燭《ろうそく》から来ているのであって、三稜形をした大燭台の前には乳香が燻《た》かれ、その烟《けむり》と光とは、火箭《かせん》のように林立している小円柱を沿上
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