きべや》でも、鎖されていたのではないから、ほとんど跡は残らぬし、死後はけっして固く握れるものじゃない。けれども、だいたい検屍官なんてものが、秘密の不思議な魅力に、感受性を欠いているからなんだよ」
その時、この殺気に充ちた陰気な室の空気を揺《ゆす》ぶって、古風な経文歌《モテット》を奏でる、侘《わび》しい鐘鳴器《カリリヨン》の音が響いてきた。法水は先刻《さっき》尖塔の中に錘舌鐘《ピール》([#ここから割り注]錘舌のある振り鐘[#ここで割り注終わり])は見たけれども、鐘鳴器《カリリヨン》([#ここから割り注]鍵盤を押して音調の異なる鐘を叩きピアノ様の作用をするもの[#ここで割り注終わり])の所在には気がつかなかった。しかし、その異様な対照に気を奪われている矢先だった。それまで肱掛に俯伏《うつぶ》していた真斎が必死の努力で、ほとんど杜絶《とぎ》れがちながらも、微かな声を絞り出した。
「嘘だ……算哲様はやはり室《へや》の中央で死んでいたのだ……。しかし、この光栄ある一族のために……儂《わし》は世間の耳目を怖れて、その現場から取り除いたものがあった……」
「何をです?」
「それが黒死館の悪霊、テ
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