いったい何が?」
「ウイチグス呪法典はいわゆる技巧呪術《アート・マジック》で、今日の正確科学を、呪詛《じゅそ》と邪悪の衣で包んだものと云われているからだよ。元来ウイチグスという人は、亜剌比亜《アラブ》・希臘《ヘレニック》の科学を呼称したシルヴェスター二世十三使徒の一人なんだ。ところが、無謀にもその一派は羅馬《ローマ》教会に大啓蒙運動を起した。で、結局十二人は異端焚殺に逢ってしまったのだが、ウイチグスのみは秘かに遁《のが》れ、この大技巧呪術書を完成したと伝えられている。それが後年になって、ボッカネグロの築城術やヴォーバンの攻城法、また、デイやクロウサアの魔鏡術やカリオストロの煉金術、それに、ボッチゲルの磁器製造法からホーヘンハイムやグラハムの治療医学にまで素因をなしていると云われるのだから、驚くべきじゃないか。また、猶太秘釈義《ユダヤカバラ》法からは、四百二十の暗号がつくれると云うけれども、それ以外のものはいわゆる純正呪術であって、荒唐無稽もきわまった代物ばかりなんだ。だから支倉君、僕等が真実怖れていいのは、ウイチグス呪法典一つのみと云っていいのさ」
はたして、この予測は後段に事実とな
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