\―どんなに考えてもとうてい窺知《きち》[#「窺知」は底本では「窮知」]し得べくもなかった、伸子の殺人動機に触れた。それは無言の現実だった。ロダンの「接吻《キッス》」の胴体から取り出したものを、法水が衣袋《ポケット》から抜き出した時、思わず二人の眼がその一点に釘付けされてしまった――乾板。そして、幾つかの破片をつなぎ合わせて見ると、それには次の全文が現われたのである。
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一、ダ□□ベ□□□□□砒石の□□□□。
一、川那部□□□□、胸腺死の危□□□□。
(特異体質の箇条は、その二つにのみ尽きていて、それ以前のものは不明だった)
一、余は、吾児□犠牲とするに忍□□□□を以て、生れた女児を男児に換えて、生長後余が秘書として手許□□□□□紙谷伸子なり。それ故、旗太郎は□□□□血系には全然触れざるものなり。
[#ここで字下げ終わり]
こうして、紛糾混乱を重ねた黒死館殺人事件は、ついに最終の幕切れにおいて、紙谷伸子を算哲の遺子として露わすに至った。そうなると、勿論算哲の悶死《もんし》は、伸子の|親殺し《ファテールテーツング》であり、|父よ吾も人の子なり《パテル・ホモ・スム》――の一文は、当然その深刻をきわめた、復仇の意志にほかならないのだった。しかし、その乾板と云うのが、法水の夢想の華《はな》――屍様図の半葉であったとは云え、要するに、現存のものはその一部のみであって、他は落した際に微塵となったか、それとも、伸子が破棄してしまったものか、いずれにしても二人以外の特異体質の闡明《せんめい》は、久遠《くおん》の謎として葬られなければならなかった。やがて検事は、夢から醒めたような顔になって訊ねた。
「なるほど、当然自分が当主でありながら、今さらどうにもならない――それが因で、伸子を残忍な欲求の母たらしめた。あの嗜血癖《しけつへき》の起因は、僕にもようく判るんだ。しかし、犯行のつどに、恐らく人間の世界を超絶しているとしか思われない、怪異美と大観とを作り出したのは――。法水君、それを心理学的に説明してくれ給え」
「それは、一口に云えば遊戯的感情――一種の生理的洗滌《カタルシス》さ。人間には、抑圧された感情や乾ききった情緒を充すものとして、何か一つの生理的洗滌《カタルシス》が要求される。ねえ支倉君、ザベリクス([#ここから割り注]若きファウストと呼ばれ、十六世紀
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