だが、なんという莫迦《ばか》な奴《やつ》だろう。彼奴《あいつ》は、自分の見世物的な特徴に気がつかないのだ」
 法水はその間、軽蔑したように相手を見ていたが、
「そうなるかねえ」と一言反対の見解を仄《ほの》めかしただけで、像の方に歩いて行った。そして、立法者《スクライブ》の跏像と背中を合わせている傴僂の前に立つと、
「オヤオヤ、この傴僂は療《なお》っているんだぜ。不思議な暗合じゃないか。扉の浮彫では耶蘇に治療をうけているのが、内部《なか》に入ると、すっかり全快している。そしてあの男は、もうたぶん唖《おし》にちがいないのだ」と最後の一言をきわめて強い語気で云ったが、にわかに悪寒を覚えたような顔付になって、物腰に神経的なものが現われてきた。
 しかし、その像には依然として変りはなく、扁平な大きな頭を持った傴僂《せむし》が、細く下った眼尻に狡《ずる》そうな笑を湛えているにすぎなかった。その間、何やら認《したた》めていた検事は、法水を指《さし》招いて、卓上の紙片を示した。それには次のような箇条書で、検事の質問が記されてあった。
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一、法水は大階段の上で、常態ではとうてい聞えぬ音響を召使が聴いたのを知ったと云う――その結論は?
二、法水は拱廊《そでろうか》で何を見たのであるか?
三、法水が卓子灯《スタンド》を点けて、床を計ったのは?
四、法水はテレーズ人形の室の鍵に、何故逆説的な解釈をしようと、苦しんでいるのであるか?
五、法水は何故に家族の訊問を急がないのか?
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 読み終ると、法水は莞爾《にこり》として、一・二・五の下に|――《ダッシュ》を引いて解答と書き、もし万に一つの幸い吾にあらば[#「もし万に一つの幸い吾にあらば」に傍点]、犯人を指摘する人物を発見するやも知れず[#「犯人を指摘する人物を発見するやも知れず」に傍点](第二あるいは第三の事件)――と続いて認《したた》めた。検事が吃驚《びっくり》して顔を上げると、法水はさらに第六の質問と標題を打って、次の一行を書き加えた。――甲冑武者はいかなる目的の下に、階段の裾を離れねばならなかったのだろう?
「それは、君がもう」と検事は眼を瞠《みは》って反問したが、その時|扉《ドア》が静かに開いて、最初呼ばれた図書掛りの久我鎮子が入って来た。

    三、屍光|故《ゆえ》なくしては

 久
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