lの矜恃《きょうじ》の中に動いている絶対の世界が、あるいは、世にもグロテスクな、この爆発を起させたかもしれないのである。そうして、その意志表示が、|吾も人の子なり《ホモ・スム》――の一句に相違ないのだけれども、仮りにもしそれが偽作だとすれば、今度は押鐘津多子を、この狂文の作者に推定しなければならない。
[#ここで字下げ終わり]
 二、犯罪現象としての押鐘津多子に――[#「二、犯罪現象としての押鐘津多子に――」は太字]。
[#ここから2字下げ]
すでに明白なのは、神意審問会の際張出縁に動いていた人影と、最初乾板を拾いに来た園芸倉庫からの靴跡、それに薬物室の闖入者《ちんにゅうしゃ》――と以上の三人が、算哲を斃《たお》し、あの夜ダンネベルグ夫人の室に侵入した人物と同一人だという事だった。そうすると、当然問題が、ダンネベルグ事件に一括されて、それには、否定すべからざる暗影を持つ押鐘津多子が、しかも、動機中の動機とも云うべきものを引っさげて、登場して来るのだった。勿論、確実な結論として律し得ない限りは、それ等の推測も、無の中の一突起にすぎないではあろうが。
[#ここで字下げ終わり]

 再び旧《もと》の室《へや》に戻って、椅子の上に落ち着くと、法水は憮然《ぶぜん》と顎《あご》を撫《な》でながら驚くべき言葉を吐いた。
「実は、算哲の屍骸の中に、二つの狂暴な意志表示が含まれているのだよ。一度はディグスビイの呪詛のために殺され[#「一度はディグスビイの呪詛のために殺され」に傍点]、そうして蘇生したところを[#「そうして蘇生したところを」に傍点]、今度はファウスト博士が止めを刺したのだ[#「今度はファウスト博士が止めを刺したのだ」に傍点]。つまり、あれは二重の殺人なんだよ」
「なに、二重の殺人※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」と熊城が驚きのあまりに問い返すと、法水は|大階段の裏《ビハインド・ステイアス》――を、実に三度転倒させて、いよいよ最終の帰結点を明らかにした。
「そうじゃないか熊城君、有名なランジイ([#ここから割り注]仏蘭西(フランス)の暗号解読家[#ここで割り注終わり])の言葉に、秘密記法《クリプトメニツェ》の最終は同字整理《シラブル・アジャストメント》にあり――というのがあるからね。そこで、その同字整理《シラブル・アジャストメント》を|紋章のない石《クレストレッス・スト
前へ 次へ
全350ページ中319ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング