驍ゥら、当然、久我鎮子が、道徳の最も頽廃《たいはい》した形式と、叫んだのも無理ではないかもしれない。いわゆる黒死館殺人事件と呼ばれて、酷烈|酸鼻《さんび》[#ルビの「さんび」は底本では「さんぴ」]をきわめた流血の歴史よりかも、すでにそれ以前行われていて、しかも眼《ま》のあたり、遺骸の形状《かたち》にもそれと頷《うなず》かれる恐怖悲劇の方が、胸を塞いでくる強い何物かを持っていたのは事実だった。それから、スリッパの跡の調査を始めたが、それは聖窟《クリプト》の階段を上りきった頭上の扉口《ドアぐち》――すなわち墓地の棺龕《カタファルコ》まで続いている。しかし、ここまで来ると、ようやくその前後が明らかになって、犯人がダンネベルグ夫人の室《へや》から坑道に入り、それから棺龕《カタファルコ》の蓋を開けて、裏庭の地上に出たのを知ることが出来た。またそれ以外にも、埃に埋もれかかった足跡らしいものが散在していて、既《とう》からあの明けずの間に、異様な潜入者のあったことは疑うべくもなかった。調査が終ると、三人は愴惶《そうこう》に石棺の蓋を閉じて、この圧し狂わさんばかりの、鬼気から遁《のが》れていった。そして、道々法水は、幾つかの発見を綜合整理して、それを、鎖の輪のように繋《つな》げていった。
一、[#「一、」は太字]|父よ、吾も人の子なり[#「父よ、吾も人の子なり」は太字]《パテル・ホモ・スム》の考察――[#「の考察――」は太字]。
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すでにそれは、如何《いかん》とも否定し難い|物云う表徴《テルテール・シムボル》である。しかし、算哲が自説の勝利に対する狂的な執着からして、四人の異国人を帰化入籍させたのみならず、常軌を逸した遺言書を作ったり、また屍様図を描き魔法典|焚書《ふんしょ》を行ったりして、犯罪方法を暗示したり捜査の攪乱《かくらん》をあらかじめ企てたという事が、はたして、三人のうちのどの一人に衝動を与えたか――その決定は勿論疑問なのだった。と云うものの、その父《パテル》――の一語は、明白に旗太郎もしくは、セレナ夫人を指していて、あるいは旗太郎が、遺産に関する暴挙に復仇したものか、それともセレナ夫人が、なんらかの動機から、算哲の真意を知ることが出来て――それには、法水の狂的な幻影としか思われない、屍様図の半葉が暗示されてくるのであるが――もしそうだとすれば、夫
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