フですわ。最初|地精《コボルト》の札を、私の机の中に入れて置いたばかりではございません。今日も、あの悪魔はまた私を択んで、人身御供《ひとみごくう》の三人の中に加えるんですもの」と背後に廻した両手で、竪琴《ハープ》の枠を固く握りしめ、それを激しく揺《ゆす》ぶった。「ねえ、法水さん、貴方は、クリヴォフ様が演奏壇のどこで刺されたか、また、どっちの側から転げ落ちたか――お知りになりたいのでしょう。けれども、ほんとうに私、何も知らないのです。ただ竪琴《ハープ》の枠を掴んで、凝然《じっ》と息を詰めていたのでございますから、ねえ旗太郎様、セレナ様、貴方がたは、たぶんそれを御存じでいらっしゃいましょう」
「いいえ、私がもしグイディオン([#ここから割り注]ドルイド呪教に現われた、暗視隠形に通じていたと云われる、大神秘僧[#ここで割り注終わり])でしたら、あるいは知っていたかもしれませんわ」とセレナ夫人は、戦《おのの》きの中に微かな皮肉を泛《うか》べた。すると、それに言葉を添えて、旗太郎が法水に云った。
「事実そうなんです。生憎《あいにく》僕等には、昆虫や盲者《めくら》が持ち合わせているほど、空間に対する感覚が正確でないのですよ。それに、なにしろ衣裳が同じなものですからね。伸子さんが燐寸《マッチ》を擦《す》って顔を照らすまでは、いったい誰が斃《たお》されたのか、それさえも明瞭《はっきり》していなかったというくらいで……。いやいっそ、何も聴えず、気動にも触れなかったと申しましょうか」と事件の局状《シチュエーション》が、法水等に不利なのを察したと見え、早くも、彼の瞳の中を、圧するような尊大なものが動いていった。「ところで法水さん、いったい本開閉器《メイン・スイッチ》を切ったのは、誰なんでしょうか。その鮮かな早代りで、一人二役を演《や》ってのけた悪魔というのは?」
「なに、悪魔ですって※[#感嘆符疑問符、1−8−78] いや、黒死館という祭壇を屋根にしている――人生そのものが、すでに悪魔的なんじゃありませんか」と眼前の早熟児を、薄気味悪いほど瞶《みつ》めながら、法水は最後の言葉を捉えた。「実は旗太郎さん、僕は旧派の捜査法を――つまり、人間の心細い感覚や記憶などに信憑《しんぴょう》を置くのを、聖骨と呼んで軽蔑しているのですよ。ところが、今日の事件では、殯室《モーチュアリー・ルーム》の聖パトリ
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