ェ爛《ただ》れんばかりの高温にもかかわらず、今や前方に開かれてゆく闇の奥からは、まるで穴窟《あなぐら》のような空気が、冷やりと触れてくるのだ。そして、扉《ドア》が一杯に開ききられたとき、その薄明りの中から、法水は自分の眼に、眩《くら》み転《まろ》ばんばかりの激動をうけたのだった。パッと眼を打ってきた白毫《びゃくごう》色の耀きがあって、思わず彼は、前方の床を瞶《みつ》めたまま棒立ちになってしまった。それはけっして、この僧院造り特有の、暗い沈鬱な雰囲気《ムード》が、彼に及ぼした力ではなかったのだ。
[#礼拝堂付近の図(fig1317_49.png)入る]
そこの床上一面には、数十万の白|蚯蚓《みみず》を放ったかと思われるような、細い短い曲線が無数にのたうち交錯していて、それが積り重なった埃《ほこり》の上で、地の灰色を圧していて、清冽な――しかし見ようによっては、妙に薄気味悪く粘液的にも思われる白光を放っているのだった。――それは、瞶《みつ》めていると、視野に当る部分だけが、荘厳な紋章模様《ブレゾンリー》のような形になって、宙に浮び上り、パッと眼に飛びついてくるのだ。その光は、さながらゴットシャルク([#ここから割り注]第一十字軍以前の先発隊を率いた独逸の修道僧[#ここで割り注終わり])の見た、聖《セント》ヒエロニムスの幻のように思われる。しかも、その無数の線条は、ほとんど室《へや》全体の床にわたっていて、濛気で堆塵の上に作られた細溝には相違ないけれども、不思議なことに、天井や周囲の壁面には、それと思《おぼ》しい痕跡が残されていない。そればかりでなく、さらに床を横合から透かしてみると、まるで月世界の山脈か沙漠の砂丘としか思われぬような起伏が、そこにもまた無数と続いているのだった。それ等は、いかなる名工といえどもとうてい及び難い、自然力の微妙な細刻に相違ないのである。
その室《へや》は石灰石の積石で囲まれていて、艱苦《かんく》と修道を思わせるような沈厳な空気が漲《みなぎ》っていた。突き当りの石扉の奥が屍室で、その扉《ドア》面には、有名な聖《セント》パトリックの讃詩《ヒム》――「|異教徒の凶律に対し、また女人・鍛工及びドルイド呪僧の呪文に対して《アゲインスト・ブラックロウス・オヴ・ゼ・ヒイズン・アンド・アゲインスト・ゼ・スペルス・オヴ・ウイミン・スミスス・アンド・ドルイズ
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