ェ不可能にされてしまった。あらかじめ観客の注意を散在せしめないために、階下の一帯を消燈しておいたので、廊下の壁燈が仄《ほん》のりと一つ点《つ》いているだけ、広間《サロン》も周囲の室も真暗《まっくら》である。その喧囂《けんごう》たるどよめきの中で、法水は、暗中の彩塵を追いながら黙考に沈みはじめた。そこへ、検事が歩み寄って来て、クリヴォフ夫人が背後から心臓を刺し貫かれ、すでに絶命しているという旨を告げた。
 しかし、その間に法水の推考が成長していって、ついに洋琴《ピアノ》線のように張りきってしまった。そして、目前の惨事に、最初から現われてきた事象を整理して、その曲線に、一本の切線《カッティング・ライン》を引こうと試みた。――第一、演奏者中にレヴェズがいないという事だ。(しかし、聴衆の中にも彼の姿は見出されなかったのである)。それから、暗黒と同時にこの室《へや》が密閉されたという事――つまり、事件の発生前後の状況が、ともに同一であるという事だった。ところが、最後の開閉器《スイッチ》を捻《ひね》ったのは誰か――云い換えれば、最も重要な帰結点であるところの消燈の件《くだ》りになると、それに端なくも、法水は一道の光明を認め得たのであった。と云うのは、装飾灯《シャンデリヤ》が消える直前に、津多子が入口の扉《ドア》に現われて、扉《ドア》際にある開閉器《スイッチ》の脇を通ってから、その側の端に近い、最前列の椅子を占めたからである。
 事実それに、法水が発見した最初の座標があったのだ。それは、アベルスの「犯罪形態学《フェルブレッヘリッシェ・モルフォロギイ》」の中に挙げられている詭計の一つで、蓋附き開閉器《スイッチ》に電障を起させるために、氷の稜片を利用するという方法である。つまり、把手《つまみ》に続いている絶縁物に稜片の先を挾んで置くので、把手《つまみ》を捻《ひね》ると、接触板が微かに触れる程度で点燈される。が、その直後、把手《つまみ》に腕を衝突させるのが狡策であって、そうすると氷の先が折れて、稜片の胴が、熱のある接触板の一つに触れる。したがって、そうして溶解した氷の蒸気が陶器台の上に水滴を作れば、当然そこに電障が起らねばならない。しかも、溶解した氷は、そのまま消失してしまうのである。すなわち、この場合|開閉器《スイッチ》の側を過ぎる際に、もしその狡策を津多子が行ったとしたら、当然消燈
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