ソょうど第二楽章に入ったばかりのところだった。竪琴《ハープ》は伸子が弾いていて、その技量が、幾分他の三人――すなわち、クリヴォフ、セレナ、旗太郎に劣るところは、云わば瑕瑾《かきん》と云えば瑕瑾だったろうけれども、しかし、それを吟味する余裕《ゆとり》もないのだった。と云うのは、色と音が妖しい幻のように、入りみだれている眼前の光景には、たった一目で、十分感覚を奪ってしまうものがあったからだ。下髪《さげお》の短いタレイラン式の仮髪《かつら》に、シュヴェツィンゲン風を模した宮廷楽師《カペルマイスター》の衣裳。その色濃く響の高い絵には、その昔テムズ河上におけるジョージ一世の音楽饗宴が――すなわちヘンデルの、「水楽《ウォーター・ミュージック》」初演の夜が髣髴《ほうふつ》となってくるように、それはまさしく、燃え上らんばかりの幻であり、また眩惑の中にも、静かな追想を求めてやまない力があった。
法水一行は、最後の列に腰を下して、陶酔と安泰のうちにも、演奏会の終了を待ち構えていた。しかも、彼等のみならず、誰しもそうであったろうが、このように煌々《こうこう》と輝く大|装飾灯《シャンデリヤ》の下では、まずいかなるファウスト博士といえども、乗ずる隙は、万が一にもあるまいと信じられていた。ところが、そのうち竪琴《ハープ》のグリッサンドが、夢の中の泡のように消えて行って、旗太郎の第一|提琴《ヴァイオリン》が主題の旋律を弾《ひ》き出すと、……その時、実に予想もされ得なかった出来事が起ったのである。突然聴衆の間から湧き起った、物凄じい激動とともに、舞台が薄気味悪い暗転を始めたのであった。
不意に装飾灯《シャンデリヤ》の灯が消えて、色と光と音が、一時に暗黒の中へ没し去った。と、ちょうどそれと同時に、何者が発したものか、演奏台の上で異様な呻《うめ》き声が起ったのである。続いて、ドカッと床に倒れるような響がしたかと思うと、投げ出されたらしい絃楽器が、弦と胴をけたたましく鳴らせながら、階段を転げ落ちていった。そして、その音がしばらく闇の中で顫《ふる》えはためいていたが、杜絶《とだ》えてしまうと、もはや誰一人声を発する者もなく、堂内は云いしれぬ鬼気と沈黙とに包まれてしまった。
呻吟《しんぎん》と墜落の響――。たしか四人の演奏者の中で、そのうち一人が斃《たお》されたに相違ない。そう思いながら、法水が凝然《
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