ヌも》ったが、検事を満足させるような回答を与えなかった。それに法水は、押しつけるような無気味な声音で追求した。
「オイ、本当の事を云うんだ。広間《サロン》にある藤花蘭《デンドロビウム・ティルシフロルム》の色合わせは、ありゃ、たしか君の芸じゃあるまいね」
この専門的な質問は、ただちに驚くべき効果をもたらした。まるで老園芸師は、あたかもそれ自身が弓の弦《つる》ででもあるかのように、法水の一打で思わず口にしてしまったものがあった。
「しかし、傭人という私の立場も、十分お察し願いたいと思いまして」と訴えるような眼で、憐憫《あわれみ》を乞うような前提を置いてから、怯《お》ず怯ず二人の名を挙げた。「最初は、あの怖ろしい出来事が起りました当日の午後でございましたが、その時旗太郎様が珍しくお見えになりました。それから、昨日《きのう》はセレナ様が……、あの方は、この乱咲蘭《カテリア・モシュ》をたいそうお好みでございまして。ですが、このヤポランジイの葉だけは、仰言《おっしゃ》られるまでいっこうに気がつきませんでした」
矮樹《わいじゅ》ヤポランジイの枝に、二つの花が咲いた。すなわち、最も嫌疑の稀薄だった、旗太郎とセレナ夫人にも、一応はファウスト博士の、黒い道士服を想像しなければならず、したがってあの血みどろの行列は、新しい二人を加えることになってしまった。こうして、事件の二日目は、まさに奇矯変態の極致とも云うべき謎の続出で、恐らくその日が、事件中紛糾混乱の絶頂と思われた。のみならず、関係人物の全部が、嫌疑者と目されるに至ったので、その集束がいつの日やら涯《はて》しもなく、ただただ犯人の、迷路的頭脳に翻弄《ほんろう》されるのみだった。
その二日後――ちょうどその日は黒死館で、年一回の公開演奏会が開催される当日であったが、検事と熊城は、法水の二日にわたる検討の結果を期待して、再び会議を開いた。それが、古めかしい地方裁判所の旧館で、時刻はすでに三時を廻っていた。しかし、その日の法水には、見るからに凄愴《せいそう》な気力が漲《みなぎ》っていた。すでに一つの、結論に達したのではないかと思われたほど、顔は微かに熱ばんで、その紅潮には動的《ダイナミック》なものが顫《ふる》えている。法水は軽く口をしめしてから、切り出した。
「ところで僕は、一々事象を挙げて、それを分類的に説明してゆくことにする。そ
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