ノ頷《うなず》いたけれども、彼はしだいに言葉の調子を高めていった。
「ところがレヴェズさん、僕は遺言書と不可分の関係にある、もう一つの動機を発見したのでした。それは、算哲が残した禁制の一つ――恋愛の心理なのです」
「なに、恋愛……」レヴェズは微かに戦《おのの》いたけれども、「いや、いつもの貴方なら、それを恋愛的欲求《フェルリープト・ザイン・ヴォーレン》とでも云うところでしょうな」と相手を憎々しげに見据えて云い返すのだった。それに、法水は冷笑を泛《うか》べて、
「なるほど……。でも、貴方のように恋愛的欲求《フェルリープト・ザイン・ヴォーレン》などと云うと、ますますその一語に、刑法的意義が加わってくる訳ですな。しかし、僕はその前提として、一言、算哲の生存と地精《コボルト》との関係――に触れなければならないのです。いかにも、その魔法的効果に至っては、絶大なものに違いありますまい。ですがレヴェズさん、結局、僕はそれが比例《プロポーション》の問題ではないかと思うのですよ。貴方は、たぶんその符合を無限記号のように解釈して、永劫《えいごう》悪霊の棲む涙の谷――とくらいに、この事件を信じておられるでしょう。けれども、僕はそれとは反対に、すでに善良な護神《ゲニウス》――グレートヘンの手が、ファウスト博士に差し伸べられているのを知っているのです。では、何故かと云いますと、だいたいあの悪鬼の犠牲とならなかった人物が、もうあと何人残っていると思いますね。ですから、あれほどの知性と洞察力を具えている犯人なら、当然ここで、犯行の継続に危険を感じなければならぬ道理でしょう。いや、そればかりではないのですよ。もう犯人にとっては、この上屍体の数を重ねてゆかねばならぬ理由はないのです。つまり、クリヴォフ夫人の狙撃を最後にして、あの屍体蒐集癖が、綺麗《きれい》さっぱり消滅してしまったからなんですよ。さて、ここでレヴェズさん、僕の採集した心理標本を、一つお目にかけることにしましょう。つまり、法心理学者のハンス・リーヒェルなどは、動機の考察は射影的《プロジェクチヴ》に――と云いますけれども、しかし僕は、動機についてもあくまで測定的《メトリカル》です。そして、事件関係者全部の心像を、すでに隈《くま》なく探り尽したのでした。で、それによると、犯人の根本とする目的は、ただ一途、ダンネベルグ夫人にあったと云うことが
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