トいることなのです。ああ、あのディグスビイの毒念が、未だ黒死館のどこかに残されているような気がしてならないじゃありませんか。しかも、確かそれは、人智を超絶した不思議な化体《けたい》に相違ないのです。いや、僕はもっと極言しましょう。蘭貢《ラングーン》で投身したというディグスビイの終焉《しゅうえん》にも、その真否を吟味せねばならぬ必要がある――と」
「ふむ、ディグスビイ……。あの方が事実もし生きておられるなら、ちょうど今年で八十になったはずです。しかし法水さん、貴方が童謡と云われたのは、つまりそれだけの事ですかな」とレヴェズは依然嘲侮的な態度を変えないのだった。しかし、法水は関《かま》わずに、冷然と次の項目に移った。
「云うまでもなく、ディグスビイの無稽《むけい》な妄想と僕の杞憂《きゆう》とが、偶然一致したのかもしれません。しかし、次の算哲の件《くだ》りになると、まず誰しも思い過しとは思わないものが、実に異様な生気を帯びてくるのですよ。勿論、算哲が遺産の配分について採《と》った処置は、明白な動機の一つです。また、それには、旗太郎以下津多子に至る五人の一族が、各自各様の理由でもって包含されているのです。しかし、それ以外もう一つの不審と云うのは、ほかでもない遺言書にある制裁の条項でして、それが、実行上ほとんど不可能だと思われるからです。ねえレヴェズさん、仮令《たとえ》ば恋愛というような心的なものは、それをどうして立証するのでしょうね。ですから、そこに算哲の不可解な意志が窺《うかが》えるように思われて、つまり僕にとれば、開封がもたらした新しい疑惑と云っても差支えないのですよ。しかも、それは単独に切り離されているものではなくて、どうやら一縷《いちる》の脈絡が……。別に僕が、内在的動因と呼んでいるのがあって、その二点の間を通《かよ》っているものがあると思われるのです。そこでレヴェズさん、僕は思いきって露骨《あけすけ》に云いますがね。何故、貴方がた四人の生地と身分とが、公録のものと異なっているのでしょうか。で、その一例を挙げればクリヴォフ夫人ですが、表面あの方は、カウカサス区地主の五女であると云われている。しかし、その実|猶太《ユダヤ》人ではないでしょうか」
「ウーム、いったいそれを、どうして知られたのです」とレヴェズは、思わず眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》
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