bと智的なものが閃《ひらめ》いたかと思うと、伸子は高い顫《ふる》えを帯びた声で云った。「ああ、あの方[#「あの方」に傍点]に御用がおありなのでしょうか。それでしたら、鍵盤《キイ》のある刳《く》り込みの天井には、冬眠している蝙蝠《こうもり》がぶら下っておりました。また、大きな白い蛾が、まだ一、二匹生き残っていたのも知っておりますわ。ですから、冬眠動物の応光性《トロピズム》さえ御承知でいらっしゃいますのなら……。そうして光さえお向けになれば、あの動物どもはその方へ顔を向けて、何もかも喋《しゃべ》ってくれるでしょうからね。それとも、この事件の公式どおりに、それが算哲様だった――とでも申し上げましょうか」
 伸子は、毅然《きぜん》たる決意を明らかにした。彼女は自身の運命を犠牲にしてまでも、或る一事に緘黙《かんもく》を守ろうとするらしい。
 しかし、云い終ると何故であろうか、まるで恐ろしい言葉でも待ち設けているように、堅くなってしまった。恐らく、彼女自身でさえも、嘲侮の限りを尽している自分の言葉には、思わず耳を覆いたいような衝動に駆られたことであろう。熊城は唇をグイと噛み締めて、憎々しげに相手を見据えていたが、その時法水の眼に怪しい光が現われて、腕を組んだままズシンと卓上に置いた。そして、いかにも彼らしい奇問を放った。
「ああ、算哲……。あの凶兆の鋤《すき》――スペードの王様《キング》をですか」
「いいえ、算哲様なら、ハートの王様《キング》でございますわ」と伸子は反射的にそう云った後で、一つ大きな溜息をした。
「なるほど、ハートなら、愛撫と信頼でしょうが」と瞬間法水の眼が過敏そうに瞬《またた》いたが、「ところで、その告げ口をするという蝙蝠《こうもり》ですが、いったいそれは、どっちの端にいたのですか」
「それが、鍵盤《キイ》の中央から見ますと、ちょうどその真上でございましたわ」と伸子は躊《ため》らわずに、自制のある調子で答えた。
「しかし、その側《かたわら》には、好物の蛾がいたのです。けれどもその蛾が、あくまで沈黙を守っている限りは、よもや残忍な蝙蝠だって、むだに傷つけようとはいたすまいと思いますわ。ところが、その寓喩《アレゴリー》は、実際とは反対なのでございました」
「いや、そういう童話めいた夢ならば、改めてゆっくりと見てもらうことにしよう――今度は監房の中でだ」と熊城が毒々
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