塔g》から受けた恩恵と、彼の種族に対するとの両様の意味で、|二重の裏切《ダブル・ダブルクロッス》じゃないか。つまり、ハートの史本にはないけれども、プロシア王フレデリック二世の伝記者ダヴァは、軽騎兵ブラーエを、プロック生れの波蘭猶太人《ポウリッシュ・ジュウ》だと曝《あば》いている。そして、その本名が、ルリエ・クロフマク・クリヴォフ[#「クリヴォフ」に傍点]なんだ!」
 その瞬間、あらゆるものが静止したように思われた。ついに、仮面が剥がれて、この狂気芝居は終ったのだ。常に審美性を忘れない法水の捜査法が、ここにもまた、火術初期の宗教戦争で飾り立てた、華麗きわまりない終局《キャタストロフ》を作り上げたのだった。しかし、検事は未だに半信半疑の面持で、莨《たばこ》を口から放したまま茫然《ぼんやり》と法水の顔を瞶《みつ》めている。それに法水は、皮肉に微笑みながらも、ハートの史本を繰りその頁《ページ》を検事に突き付けた。
(グスタフス王の歿後、ワイマール侯ウイルヘルムの先鋒銃兵《フロント・マスケチーア》ホイエルスヴェルダに現われるに及び、初めて彼が、シレジアに野心ある事明らかとなれり)
「ねえ支倉君、ワイマール侯ウイルヘルムは、その実皮肉な嘲笑的な怪物だったのだよ。しかし、さしもクリヴォフが築き上げた墻壁《しょうへき》すらも、僕の破城槌《バッテリング・ラム》にとれば、けっして難攻不落のものではないのだ」と背後にある大火図の黒煙を、赫《か》っと焔のように染めている、陽の反映を頭上に浴びながら、法水は犯人クリヴォフを俎上《そじょう》に上《のぼ》せて、寸断的な解釈を試みた。
「最初に僕は、クリヴォフを土俗人種学的に観察してみたのだ。勿論イスラエル・コーヘンやチェンバレンの著述を持ち出さなくても、あの赤毛や雀斑《そばかす》、それに鼻梁の形状などが、それぞれアモレアン猶太人《ジュウ》([#ここから割り注]最も欧羅巴(ヨーロッパ)人に近い猶太人の標型[#ここで割り注終わり])の特徴を明白に指摘しているものだと云える。しかしそれを、より以上確実にしているのが、猶太人特有ともいう猶太王国恢復《ザイオニック・シムボリズム》の信条なんだ。猶太人《ジュウ》がよく、その形をカフス釦《ボタン》や|襟布止め《ネクタイ・ピン》に用いているけれども、そのダビデの楯(※[#正三角形と逆正三角形が組み合わさった六芒星
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