Cのために殺されたり。それより先日没後に、ブラーエはオーヘム大佐に従いて、戦闘最も激烈なりし四風車地点を巡察の途中、彼の慓悍《ひょうかん》なる狙撃の的となりし者を指摘す。曰《いわ》く、ベルトルト・ヴァルスタイン伯、フルダ公兼大修院長パッヘンハイム……
そこまで来ると、熊城は顔でも殴《なぐ》られたかのようにハッと身を引いた。そして、容易に声が出なかった。検事はしばらく凝然と動かなかったが、やがてほとんど聴取れないほど低い声で、次句を読みはじめた。
「デイトリヒシュタイン公ダンネベルグ[#「ダンネベルグ」に傍点]、アマルティ公領司令官セレナ[#「セレナ」に傍点]、ああ、フライベルヒの法官《チャンセラー》レヴェズ[#「レヴェズ」に傍点]……」とグッと唾を嚥《の》み込んで、濁った眼を法水に向けた。「とにかく法水君、君が持ち出した、この妖精園の光景を説明してくれ給え。どうも、配役《キャスト》の意味がさっぱり嚥み込めんのだよ――何故リュッツェン役を筋書《プロット》にして、黒死館の虐殺史が起らねばならなかったのだろうか。それに、あるいは杞憂《きゆう》にすぎんかもしれんがね。僕はここに名を載せられていない旗太郎と、クリヴォフとそのどっちかのうちに、犯人の署名《サイン》があるのではないかと思うのだよ」
「うん、それがすこぶる悪魔的な冗談なんだ。考えれば考えるほど、慄然《ぞっ》となってくる。第一、この大芝居を仕組んだ作者というのは、けっして犯人自身ではないのだ。つまりその筋書《プロット》が、あの五芒星呪文の本体なんだよ。リュッツェンの役では、軽騎兵ブラーエとその母体である暗殺者の魔法錬金士オッチリーユとの関係だったものが、この事件に来ると、[#ここから横組み]犯人+X[#ここで横組み終わり]の公式に変ってしまうのだ」と法水は、この妖術めいた符合の解釈を、ぜひなく事件の解決後に移したけれども、続いて凄気を双眼に泛《うか》べて、黒死館の悪魔を指摘した。
「ところで、そのブラーエが、オッチリーユ[#「オッチリーユ」は底本では「オッチリーエ」]からの刺者であることが判ると、そこで、彼の本体を闡明《せんめい》する必要があると思う。それが、|二重の裏切《ダブル・ダブルクロッス》なんだ。旧教徒《カトリック》と対抗して比較的|猶太人《ジュウ》に穏かだったグスタフス王を暗殺したのは、新教徒《プロテスタ
前へ
次へ
全350ページ中189ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング