A死後に肉体から発光したという記録を残している。そこに熊城君、偶然にしてはとうてい解しきれない符合があるのだよ。何故なら、その四つの地点を連ねたものが、ほぼ正確な矩形《くけい》になって、それがケーニヒグレーツ事件を起した、ボヘミア領を取り囲んでいるからなんだ。ああ、その実数《スカラー》はなんだろうか。僕は、喋《しゃべ》れば喋るほど判らなくなってくるのだが、しかし、死体を照らすという猶太《ユダヤ》人の風習だけは、それを、犯人の迷信的表象とすることが出来るだろうと思うのだがね」と法水は天井を振り仰いで、いかにも弱々しい嘆息を発するのだった。しかし、それを聴いて、検事の希望がまったく絶たれてしまった。彼は口元が歪むほどの冷笑を湛えて、背後の書架から、ウォルター・ハート([#ここから割り注]ウエストミンスター寺院の僧[#ここで割り注終わり])の「グスタフス・アドルフス」を取り出した。そして、パラパラと頁《ページ》を繰っているうちに、何やら発見したと見えて、開いた個所《ところ》を法水に向け、その上辺に指頭を落した。実に、法水の狂的散策を諷刺した、検事の痛烈な皮肉だったのである。
(ワイマール侯ウイルヘルムの劣悪な兵質は、アルンハイムとの競争に敗れて、王の支援を遅延せり。しかも、ノイエンホーエンの城内にて、その事をいたく非難されしも、ウイルヘルム侯は顔色さえも変えず)
しかも、それのみでは飽き足らずに、検事は執拗な態度で毒|吐《づ》いた。
「ああ、悲しむべき書目《ビブリオグラフィー》よ――じゃないか、まさに、君特有の書斎的錯乱なんだろうがね。無論あの驚嘆すべき現象に対しては、児戯にすぎんよ。どうして、深奥どころの話か、てんで遊戯的な散策とも云える価値はあるまい。ところで君が、もし鐘鳴器《カリルロン》室の場面に、精確なト書がつけられないようだったら、もうこれ以上|講演《レクチュア》はやめにしてもらおう」
「ところがねえ支倉君」と法水は、相手の冷笑を静かに微笑み返して云った。「どうして、犯人が猶太《ユダヤ》人でなければ、あの時伸子に蝋質撓拗症《フレキシビリタス・ツェレア》を起させることが出来ただろうか。ある瞬間に伸子は、まるで彫像のように、硬直してしまったのだよ。したがって、あの廻転椅子の位置は、そうなれば無論問題ではないのだ」(註)
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(註)一種の硬直症
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