実体が仮象よりも華やかでないのは道理ですわ。しかし、そんなハム族の葬儀用記念物よりかも、もしその四角の光背と死者の船を、事実目撃した者があったとしたらどうなさいます?」
「それが貴女《あなた》なら、僕は支倉《はぜくら》に云って、起訴させましょう」と法水は動じなかった。
「いいえ、易介なんです」鎮子は静かに云い返した。「ダンネベルグ様が洋橙《オレンジ》を召し上る十五分ほど前でしたが、易介はその前後に十分ばかり室《へや》を空けました。それが、後で訊くとこうなんです。ちょうど神意審問の会が始まっている最中《さなか》だったそうですが、その時易介が裏玄関の石畳の上に立っていると、ふと二階の中央で彼の眼に映ったものがありました。それが、会が行われている室の右隣りの張出窓で、そこに誰やら居るらしい様子で、真黒な人影が薄気味悪く動いていたと云うのです。そして、その時地上に何やら落したらしい微かな音がしたそうですが、それが気になってたまらず、どうしても見に行かずにはいられなかったと申すのでした。ところが、易介が発見したものは、辺り一面に散在している硝子の破片にすぎなかったのです」
「では、易介がその場所へ達するまでの経路をお訊きでしたか」
「いいえ」と鎮子は頸《くび》を振って、「それに伸子さんは、ダンネベルグ様が卒倒なさるとすぐ、隣室から水を持ってまいったというほどですし、ほかにも誰一人として、座を動いた方はございませんでした。これだけ申せば、私がこの黙示図に莫迦《ばか》らしい執着を持っている理由がお判りでございましょう。勿論その人影というのは、吾々《われわれ》六人のうちにはないのです。と云って、傭人は犯人の圏内にはございません。ですから、この事件に何一つ残されていないと云うのも、しごく道理なんでございますわ」
鎮子の陳述は再び凄風を招き寄せた。法水はしばらく莨《たばこ》の赤い尖端を瞶《みつ》めていたが、やがて意地悪げな微笑を泛《うか》べて、
「なるほど、しかし、ニコル教授のような間違いだらけな先生でも、これだけは巧いことを云いましたな。結核患者の血液の中には、脳に譫妄《せんもう》を起すものを含めり――って」
「ああ、いつまでも貴方は……」といったん鎮子は呆《あき》れて叫んだが、すぐに毅然《きぜん》となって、「それでは、これを……。この紙片が硝子の上に落ちていたとしましたなら、易介
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