u分りませんね。何です、それは」
「分らないの、マアいいわ。いいから、出てないと水を引っかけるわよ」
 私はさんざんに翻弄され、それでも、若葉を嗅ぐような、爽《さや》けい匂いをつけて戻ってきました。
 それから、部屋へ戻って寝台にころがっているうちに私は、四肢五体を揉みほごされるように狂わしくなってきたのです。
(なんのためだ……なんのために僕を浴室なんかへ呼んだのだ?)
 それは、あるいはミス・ヘミングウェーの気紛れかもしれないが、いちがいにそう云い切ってしまうには、あまりに、奔騰的だ、噴油だ。鬱積しているものが悶《もだ》え出ようとしているのか。
(ふむ、よくあることだ。よく、青葉病といって、急に憂鬱になるか、それとも、見境いなく齧《かじ》りつくような、亢進症《ニムフォマニー》になるか――。とにかくあれは、殻を割りたくても、割り得ない悩みなんだ。あの娘は、心のなかじゃ充分熟れ切っている。そこへ、破ろうとしても、させないような潔癖さがあるのだ。そうだ、たしかに処女性の病的なものがある。)
 と、決めてしまうのも、独り合点でしょうか。分りません※[#感嘆符疑問符、1−8−78] ミス・ヘ
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