。
「おいおい、話というものはしまいまで聴くもんだ。僕が、何百、何十万年秘められていたかもしれぬ『太平洋漏水孔』の大驚異――それを話そうと思う矢先、早まりやがって……」
「そ、そうか」
「それみろ。とにかく『太平洋漏水孔《ダブックウ》』のなかに何かしらあるらしいことは、君に作家的神経がありゃ、感付かにゃならんところだ。といって、僕が往ったわけじゃない。じつは、ひとりそこへ入り込んで奇蹟的に生還したものがいる。そしてその人物と、僕のあいだには奇縁的な関係がある」
「なんと云うんだ! そして、どこの国のものだ」
「日本人だ。しかも、頑是ない五歳ばかりの男の子だ」
私は、ちょっと、暫くのあいだ物もいえなかった。読者諸君も、その五歳という文字を誤植ではないかと疑うだろう。しかし、五歳はあくまでも五歳。そこに、この「太平洋漏水孔《ダブックウ》」漂流記のもっとも奇異な点があるのだ。では、しばらく私は忠実な筆記者として、折竹の話を皆さんに伝えよう。
「黒人諸島《メラネシア》」浦島
それが、第一次大戦勃発直後の大正三年の秋――。日本海軍が赤道以北の独領諸島を掃蕩しつくしたけれど、まだ
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