外海へ出そうというのだ。それには、渡り鳥である鰹鳥を利用する。さらに“Cohoba《コホバ》”をハチロウにもちいて泥々に酔わせて置く。そして、そのハチロウを入れた籠を鰹鳥にひかせる。おそらく、五羽の鰹鳥はその籠をひいて、底をかすかに水面に触れながら、まっしぐらに突っ切るだろう。
 愛は、ハチロウをきっと守るにちがいない。そして神も、私の天使ハチロウに倖いするだろう。
[#地から4字上げ]水面下の島にて
[#地から1字上げ]キューネ

         *

 私は、読みおわってからも亢奮がさめず、なんだか此処も、斜めに倒れながら歩いている感じがするという、「太平洋漏水孔《ダブックウ》」のその島のような気がした。折竹は、にたにた笑いながら私のからだを支え、
「オイ、しっかりしろ」
 と怒鳴った。私は、頭の靄がようやく霽れたように、
「そのハチロウという子は助かったわけだね。で、今は?」
「あいつかね。あいつは、時々いま重慶へ飛んでゆくよ。そして、爆薬のはいったおそろしいウンコを置いてゆく。まったく、ニューギニアといい『太平洋漏水孔《ダブックウ》』といい、よく方々へウンコを置いてゆく奴さ」
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