》”という合歓科の樹の種だ。土人は、そのくだいた粉を鼻孔に詰めて吸う。すると、忽ちどろどろに酔いしれて、乱舞、狂態百出のさまとなるのだ。いま、その“Cohoba《コホバ》”の妖しい夢のなかで、独木舟《プラウー》は成否を賭け飛沫をあびながら走っている。
それから、渦中をゆくことなん時間後のことだろう。ふと、外界が朦朧と見えてきたと思うと、頬にあたる熱気の感じがちがう。オヤッ、と、キューネがふと横をむくと、舟は、大岩礁に桁先をはさんで停っている。
島だ――と彼は歓喜の声をあげた。独木舟《プラウー》はついに湿熱環を突破し、緩和圏中の一島についたのである。
*
折竹は、そこまで話してふと口を休めた。そして、隣室から手紙のようなものを持ってきて、
「これからは、キューネの手紙を見たほうがいいだろう。簡単だが、僕の話よりも切々と胸をうつよ」
という。
*
その島は、周囲八マイルもあるだろうか。ながらく外海と絶縁していたため、ひじょうに珍らしい生物がいる。その一つが、“Sphargs《スファルギス》”だ。鳴く亀である。亀が声を発するとは伝説だけで
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