、1−8−78]
と急に、嫌悪の情がむらむらっと起ってきた。キューネにも、やはりどこかにある白人の優越感が……このたった一度でナエーアの顔を、見るも厭なようになってしまったのだ。彼は、幾度も詰まりながら、ナエーアに嘘をついた。
「ナエーア、やはりここも不可ない島なんだ。疫病がある。それで、ここの島には誰も住むものがないと云うんだ」
「あァあァせっかく見付けたのに、不可ないんでしょうか」
ナエーアはキューネの気持を知らず、がっかりして云った。そしてまた、独木舟の漂流がはじまったのだ。
キューネはそれ以来、見ちがえるような人間になった。ハチロウには、以前とかわらぬ親しさを見せるが、ナエーアにはほとんど物をいわない。そして、水また水の絶海の旅が続いた。
朝は、うすら青くすがすがしい海水が、昼には、ニスを流したような毒々しい藍色になる。そして夕には、水平線を焼く火焔の大噴射。そういう、まい日まい日繰りかえされる同じような風物に、だんだんキューネに募ってくるのはおそろしい虚無。すると、ちょうどその夜あたりから、それまで吹いていた南東貿易風が弱まってきた。
「どうしたんですの。この頃は星も
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