これを、霊感で知って驚いたのは、茂林寺の茶釜狸である。
 元来、茂林寺の狸は、今の上越線の線路から一里程離れた榛名山麓湯の上村付近の出身であるとされているのであるけれど、厩橋城下の人々は、厩橋城内出身であると信じている。城の隅の穴に年古く棲んでいた狸が、神通力に功を積み、ついに茂林寺へと罷り越して、茶釜に化けたのであるという。
 それが、わが故郷の厩橋城下に大火が起こったと知ったから、胆を潰したのである。
 産湯を使った地を、焦土と化してはいけない。一番、大いに奮闘して消し止めてやろう。
 忽ち、一隊の火消組に化けた。纏《まと》いを威勢よく舁《かつ》いで、館林の町をはじめ、近所近在の消防組を狩り集め、十数里の路を、一瞬の間に厩橋城下へ駆けつけた。
 多数の消防隊は、燃え盛る猛火のなかへ飛び込んで、縦横無尽に活動したから、かかる大火もついに消し止められたのである。
 鎮火して、夜が明けた。ところで、家や土蔵が崩れ落ちて、柱や商品のぶすぶす煙《くすぶ》る白い煙のかげに、この地方では見かけぬ消防夫が、あっちこっちにも立っている。でも城下の人々はこの消防夫たちに厚く礼を述べて労を謝し、さて皆さ
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