は店の方が、ひどく騒々しいので眼をさまし、障子の穴から覗いてみると、今日茂林寺から買ってきた茶釜に頭、肢、尻っ尾が生えて、腹のふくれた大きな狸となり、それが店にならべたいろいろの古道具を踏み荒らしながら、盛んに踊っているのであった。
 これは、いかん。
 古道具屋の亭主は、びっくりした。これは、わが店へならべて置くべき品ではないと考えたのである。その翌日、早く起きて知り合いの古道具屋へこの茶釜を提げて行って、相当儲けて売った。
 それを買った古道具屋も、その夜半、狸に化けた茶釜に驚かされた。そこでまたその道具屋は次の道具屋へ売ったのである。
 こうして、茶釜は次から次へ、転々として売られて行ったのであるが、至る処で奇蹟を現わして、人々の胆を潰したのである。結局、これに関係した古道具屋連が相集まり、これは公開して世間の人に、古今はじめての奇蹟を見せてやるべきであるという相談がまとまり、見世物小屋を開いて、茶釜の狸踊りをご覧に入れたところ、大評判となって大入り満員。
 四方から遠い道を遠しとせず、見物人が押すな押すなと集まったため、僅かに数日間で道具屋連中は大儲けをした。その福を、皆々で分
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