になっていた。
 しかし、それでも二人は帰ってこなかった。どうしたのであろう。
 私は、湯屋から三円あまりの手間賃を貰ってから、いろいろの掃除道具をリヤカーに積んで親爺の家へ帰った。だが、二人は親爺の家へも帰っていない。

  四

 私は親爺に一部始終を語った。
「そうか、ご苦労だった。あいつらはほんとうは碌でもねえ野郎共なんだ。ずらかったんだ」
 親爺は低い声で呟いた。
 湯屋から貰ってきた手間賃を渡すと、親爺は分を引いた残りの二円あまりの金を私にくれたのである。三人で一日働いたのであるならば一人前七、八十銭にしかならぬのであろうが、私は三人分を一人で貰ったのだ。
 私は、黄昏《たそがれ》の道を家へ向かって歩いた。なににしても二円あまりの金を懐中したことは近来に珍しい。まことに、ありがたい次第である。おかげさまで、この金があれば米も買える。久し振りで味噌汁も味わえよう。子供に、塩鰯の一尾ずつも振舞えようか。私は、妻や子が喜ぶ顔を眼の底に浮かべて、いそいそと寒風の吹く街はずれを歩いた。
 街はずれに、泡盛屋があった。表障子に一杯十銭と書いてあるのが、眼に映った。私は、いままで親爺の家
前へ 次へ
全15ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング