の手になにか握っている。
「おい新米、土管のなかからこんなものがでた」
こういって、あば辰は大きな掌を開いてみせた。私は、その掌を覗いた。掌の上に、金の総入歯がぴかぴか光っている。あば辰と樺太は、私を新米、新米と呼んでいた。
この総入歯は、よほど贅沢の人が作ったものと見えて、ふんだんに純金が使ってある。全部で、三、四匁は使用してあるかも知れない。当時、純金は一匁三円五十銭程度であったから、どんなに安く見積もっても、この総入歯は十円以上の価値はあろう。
「どこかの大家の隠居かも知れないな、湯尻へ落としてあきらめたのだろう」
と、私はいった。
「古金屋へ持って行けば今夜一盃呑めるが、おい新米、一体これはどう処分したらいいんだ」
樺太は、こう私に問うのである。私は、しばらく考えた。
「古金屋へ持って行くのは止めたがいい。これは一応、交番へ届けなければいけねえ品だね」
こう、私は意見を述べた。すると、あば辰も樺太も苦い顔をした。
「それじゃ、一盃にならねえじゃねえか。交番で取っちまうだろう」
「もちろんさ、一年たっても遺失主が現われなければ、おいらのところへ下げ渡されるけれどその間は
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