棄てられません」
「なぜ」
「これは、竈の下の焚きつけになります」
 私は、これをきいて黙した。二、三年前、戦争がきびしくなって、誰もが燃料の不足に苦しんでいたころは、古下駄でも羽目板でも竈の下に焚いたけれど、物があり余った昭和のはじめ頃、割れ下駄を焚きつけに用いた家庭は絶無であったに違いないと思う。
 それから家内は、赤子を背中からおろして、総領の娘に抱かせてから勝手元に立った。
 温かい夕飯が、炊けた。私は、心で泣きながら、それを子供と共に食べた。

  六

 その夜半、私は電報々々と呼ぶ声に起こされたのである。
  ハハキトクスグコイ。
 と、書いてある。故郷の老母と共に暮らしている妹からの電報であった。故郷へは、ここから百五十里はあろう。
 愕然として、電報を手に握り、寝ている子供の枕もとをうろうろしている私に、
「おかあさんは、まだ危篤のままいらっしゃるのでしょうか」
 と、家内はいうのである。
「さあ、それは分からない。だが、恐らく死んでいるのじゃないかね」
 少し気持ちが落ち着いて、私は座った。
「ほんとうにお優しいおかあさんでございましたわね」
「そうだった」
「とこ
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