泡盛物語
佐藤垢石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)仕切り絆纏《ばんてん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)白|痙斑《あばた》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ]敬具
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  一

 私は、昭和のはじめ、世の中が一番不景気の時代に失職してしまった。失職当時は幾分の余裕はあったのであるけれど、食を求めて徒食している間に、持ち金悉くをつかい果たしてしまったのである。
 多くの家族を抱えて、職のないことは胸が詰まる思いである。東京にはあきらめをつけた。そして、東北地方のある小さな都会へ流れて行ったのである。そこで、地方新聞の配達をはじめた。しかし、百五十部か二百部の小新聞を購買し、これを配達していたのでは、到底七人の家族を支えきれるものではない。衣類、時計、書籍まで売り食いし、とうとう新聞の集金まで手をつけてしまった。新聞配達は、それでおしまいになった。
 また家族を纏めて、そこから五十里ばかり隔てた次の都会へ流れて行った。しかし、市中に住むということは、生活費が嵩むおそれがあるので、そこ
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