木の葉山女魚
佐藤垢石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)単衣《ひとえ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)木の葉|山女魚《やまめ》
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奥山へは、秋の訪れが早い。
都会では、セルの単衣《ひとえ》の肌ざわりに、爽涼を楽しむというのに、山の村では、稗《ひえ》を刈り粟の庭仕事も次第に忙しくなってくる。栗拾いの子供らが、分け行く山路の草には、もう水霜が降りて竜胆《りんどう》の葉がうなだれる。
渓流の波頭に騒ぐ北風も、一日ごとに荒らだってくる。そして波間に漂う落葉の色を見ると、奥の嶺々を飾っていた紅葉は、そろそろ散り始めて山肌をあらわに薄寒く、隣の谷まで忍び寄ってきた冬に慄《おのの》いているさまが想えるのである。
そのころ、澄んだ渓水の中層を落葉に絡《から》まりながら下流へ下流へと落ちていく魚がある。これを木の葉|山女魚《やまめ》という。
木の葉山女魚の姿を見ると、しみじみと秋のさびしさが身に沁みる。人間の、孤独さを想わないではいられない。
春さき、川の水が温まってくると、中流に遊んでいた山女魚は上流へ上流へと遡り、夏には冷徹な渓
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