の山女魚が随一であるという。伊予と土佐の山境に吉野川の源流が潺峡《せんきょう》をなしているが、友人がそこで釣った山女魚の濃淡を味あった。けれどやはり私はわが吾妻川の山女魚の味を凌ぐものではないと思った。
煮びたしの一片を口に含むと、舌から鼻に通う山女魚特有の濃淡な風趣、これは、いずれの魚肉にも、いずれの獣肉にもたとうべきものがない。
山女魚の風趣も魔味の一つに数えられると思う。戦局はいよいよ切迫してきた。しかし我々は、あまり神経質となってはいけない。あまりに、焦ってはならぬのだ。
身近の味覚に心を洗い、生命の最後まで、身神共に大いなる余裕を持っていねばならぬであろう。
底本:「『たぬき汁』以後」つり人ノベルズ、つり人社
1993(平成5)年8月20日第1刷発行
※<>で示された編集部注は除きました。
入力:門田裕志
校正:松永正敏
2006年12月2日作成
青空文庫作成ファイル:
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