と共に、草津から雪を踏んで頂上の大きな火口を覗いたことがあった。
 白根山は、噴火と同時に、どんな位の毒を火口から吐きだしたかを調査するのが目的であったが、科学者でない私達に、そんなことがわかろう筈がなかった。しかし案内の話によると渋峠から東南によったところ、ものの貝池の北に寄った方面に積もった火山灰には夥《おびただ》しい毒が含まれているそうだ。
 それが、雪解け頃になると雪代水と共に流れだし、下流の魚類を鏖殺《おうさつ》するという話である。草津温泉の上手から流れだす毒水沢には、硫酸そのものといっていいほどの水が流れていて、それが須川に注ぎ、須川は長野原で、吾妻川に注ぐ。
 さらに、それから二、三里上流の西久保には万座川が、火山の悪水で流れを黄色に染めて吾妻川へ注ぎ込んでいるから、吾妻川は西久保から下流は全く生物の棲めない地獄の川となっている。
 これでは、利根本流の鮎をはじめ、いろいろの魚族も、前橋の養鯉の池も、全く堪ったものでない。
 それほど猛毒の持ち主である吾妻川でも、嬬恋村大前の下手あたりから上流には、日本一の山女魚《やまめ》が棲んでいるのである。青く銀色に冴えた肌、体側に、
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