美音会
佐藤垢石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)銜《くわ》えた

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)今|摺《す》った

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)たおも[#「たおも」に傍点]と
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 十一月二十七日夜六時頃、先輩の生駒君と一緒に有楽座の美音会へ行ってみる。招待席は二階正面のやや左に寄った所を三側ばかり取ってあるが、未だ誰も見えていない。しかし、他の席は殆ど満員という有様で、廊下には煙草を口に銜《くわ》えた[#「銜《くわ》えた」は底本では「街《くわ》えた」]人が多勢行ったり来たり、立談している人もあって、その中に、美しく着飾った貴婦人達が眼を惹《ひ》く。有楽軒の食堂もかなり繁昌している。演奏開始までには未だ二十分も間があるので、菓舗へ行って椅子に腰を下ろすと、強いコーヒーの匂いがする。一杯註文すると、今|摺《す》ったばかりなので旨《うま》い。菓子と柿を食って自分らの席へ帰り、じっと開始時間を待っている。
 開演時間になって、朝日の半井君と、いま一人|歌沢《うたざわ》の好きな老人、万朝の中内、石井両君、
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