は、魚類もはや眼をさまして、私を待っているのである。魚連中は、朝の三時か四時頃が、ちょうど朝飯の時間であると見えて、鈎に餌をつけて水へ投げ込むと、直ぐ食いつくのだ。
私と同じように魚も素敵に朝早く眼をさますが、彼らは一体夜の何時頃に寝につくのであるかと考えて、さきごろ水産講習所教授殖田三郎さんと共に、相模川の支流の串川へ視察に行ったことがある。殖田先生の説明によると魚類は大体宵の八時には床に入るものであるという。そこで、二人はカンテラ提げて串川の中流の小さな淵へ、八時に到着するように見はからって出かけて行った。
淵といっても、深さ三、四尺ほどで、カンテラを指しだすと底の石まで見える。二人は、カンテラの光りで、静かに淵の層を見た。いる、いる。鮎、※[#「魚+成」、第3水準1−94−43]《うぐい》、鮠《はや》などが淵の中層で、ぐうぐうやっている。魚類のことであるから、鼾《いびき》声は聞こえないが、尾も鰭も微動だにさせないで、ゆるやかに流れる水に凝乎《じっ》としているのである。
ゆるやかであっても、水は流れている。にも拘わらず、魚は鰭や尾を動かさないでも、流されることなく、凝乎として
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