をのせて、上流へ上流へと川底の玉石に絡まり遡って行く。まことに可憐な姿である。
姿は沙魚より丈が短く、頭が比較的大きく尻がこけている。大きいのは四、五寸くらいまで育って、腹に吸盤のないものが本ものである。大きな川の川尻に鮎食いまたはタキタといって二十匁以上にも育つ同じ種類のものもいるが、これは至って不味である。
北陸地方では鰍のことを鮴《ごり》と呼んでいるが、変わった種類ではない。天明頃、長崎へ来ていた和蘭陀《おらんだ》人が調べたところによると、日本には四十幾種類の鰍がいるという。その写生図さえ残している。今ではわが国の学者によって、一層種類が増したことであろう。
山小屋の囲炉裏に、串に刺した鰍を立てならべ榾火《ほたび》で気長に烙《あぶ》って、山椒《さんしょう》醤油で食べるのが最もおいしい。焼きからしを摺鉢ですり、粉にして味噌汁のだしにすれば、これまた素敵である。
さらに、背から開いて骨と頭と腸を去り、玉子に饂飩粉《うどんこ》を薄くといた衣をつけて、天ぷらに揚げた味は、どんな種を持ってきても、これには及ばないのである。たっぷりと鍋にたぎる油に、ジュウジュウと落としても泡を立てつ
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