那珂川の鱸釣り
佐藤垢石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)鱸《すずき》釣り
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|把《たば》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)おいかわ[#「おいかわ」に傍点]
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私は、ふた昔それ以上も久しい前、水戸に浪人していたことがあった。毎日、なすこともないのであるから、釣りにばかり耽っていた。千波沼の、おいかわ釣り。那珂川上流の、鮎の友釣り。那珂川下流の、鮭の子に鱸《すずき》釣り。備前堀の鯉釣りなど、季節季節の釣りに追われるような思いを持ってきた。
しかし、おいかわ[#「おいかわ」に傍点]や鮭の子など小物釣りにはいささか飽いてきたようである。なるほど、おいかわや鮭の子釣りには、小味の趣があって人に知れない楽しみを、柔らかい竿先に感ずるのであるけれど、そればかりやっていたのでは世間が狭い。なにか、趣の変わった大物釣りでもやってみたいと考えていたところ、ある人の紹介で茨城県庁の役人と、知り合いになった。
その役人は、役人といっても、ほんとうの小役人であった。だが、釣りは達人であ
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