。一生の間、夫婦二人きりで暮らさねばなるまいと思っていたわが家庭へは、十年ばかりの間に幼い五人の天使が舞い降りて、夜が明ければ喧騒と泣き声で、まるで幼稚園のお庭のような賑やかさとなった。
 ところで、私は家内の育児の手際、殊にその気持ちのありどころに対しては、密《ひそ》かに深い注意を払ってきた。そして、自分の子が産まれてからというものは、さらに深刻な疑い深いと思えるほどの眼光を、家内の挙措《きょそ》に注いだのである。
 私には、自分の子よりも、上の二人の子供に不憫が掛かっていた。もちろん、自分の子は可愛い。しかしながら、上の二人の子供は家内にとって血を引いていない。他人である。それが私には不憫の種であった。
 ところが、家内は長い年月私の疑い深い注意など、全く知らぬ風であった。平然として、五人の子供を平等に育てている。それは、心になんのわだかまりもなかったためであったのかも知れない。上の二人の子供に対しても、自分の産んだ子らに対しても、日ごろ少しの分け隔てがないのだ。
 まるで平凡に、誰の眼から見ても、そこになんの区別もつかぬように叱り、賞め、呶鳴り、煽《おだ》て、ただ淡々として子供同
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