落ちついて捜すがいい。わしは眠い。寝る。
こんな謎のような言葉で、老父は家内をあしらったのである。家内はとりつく島がなかった。そこで家内は、夜道を一人の婢を連れただけで、里方の方へ尋ねて行った。しかし、そこにはみゑ子の姿は見えなかった。がっかりした。里方から、妹の嫁ぎ先へ電話をかけて様子を尋ねた。すると妹が電話口へ出て、それはご心配ですね。ですが、私のところへはきていません。それにしても、この夜半では何とも致し方がないでしょう。夜があけてから、ゆっくり心当たりを訪ねることにしたら、いかがでしょう。という挨拶であった。家内は眼を赤くして家へ帰り、一夜一睡もしないで、陽が昇るまで待ったが、みゑ子はとうとう帰って来なかった。
五
そのころ私は、ある会社の創立のために町の方の旅館に滞在していた。早朝、顔色蒼白となった家内は、私の部屋へ転げ込んだ。しばし、口がふるえて言葉が出ぬありさまであった。家内は気が落ちついてから、充血した眼を輝かして、昨夜からの顛末《てんまつ》を語ったのである。
私は、暗然とした。
その日の午後、警察署へ捜索願を出すと同時に、京都に電報で照会してみた
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