なって行なわれているのではないか、と思いめぐらすと、いてもたってもいられない気持ちになった――いや、そんな馬鹿なことはない――と、自分の妄想を打ち消してみるが、打ち消しても打ち消しても、妄想は後から後から霧のように湧き上がってきた。
しかしただ、心強いことはみゑ子に対する信頼である。家内がみゑ子を信ずることは絶対であった。あの子は決して心を変える子ではない。どんな誘惑があっても、何処《どこ》へも行く子ではない。こう考えると、自分の心配が愚かのように思えるけれど、次第に夜は更けて行くが、みゑ子はさっぱり帰ってこない。
家内は、十時ごろになってから隠居所にいる老父を起こして、みゑ子の帰ってこないことを話した。そして、もしかすると京都から盗みにきたのではないでしょうか、とつけ加えた。ところが老父は家内に、わしは何も知らない。京都から盗みにきたかどうかなどということは、もちろん知らない。だが、どの親も子を思う心は同じだろう。わしにしたところが、京都にいる娘も可愛いし、お前の良人である伜も可愛い。親の心は誰も同じだ。ところで、みゑ子のことは大して心配しないでもいい、とわしは思う。夜が明けたら
前へ
次へ
全17ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング