へ届けた。ほどなく警察から落とし物が発見されたという通知に接したので行って見ると、そこに拾い主であるという久留米絣《くるめかすり》の袷《あわせ》を着た十五、六歳の少年が立っている。財布の中は現金もさることながら重要書類が入っているので私はこの少年に対して深く感謝した。そして規定に従って謝礼金を取ってくれといったが少年は何としても受け取らない。僕は道に落ちていたものが財布であったから落とし主はさぞ困っているのだろうと思ったので直ぐここへ届けただけである。謝礼など貰おうとは思っていないと頑張るのだ。私はその美しい心に感激した。ところで、立会の警官は少年に対して落とし主から拾い主が謝礼を貰うのは、国の定めとなっているから受け取らねばいかん、というので少年は渋々《しぶしぶ》謝金を受け取ったような次第であった。そのとき私は少年に名を聞くと、木村義雄というものでいまはさる商業学校の夜学部へ通っているという。私は、こんな立派な精神を持っている少年なら必ず立派な将来を持つであろうと思ったから、学校を卒業したら朝鮮へ来てくれ、必ず就職の斡旋をするつもりであるから、といって別れたまま今日に及んだが、話はこ
前へ
次へ
全20ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング