納まっている婦人のは、骸は既に風水に解けて容は止めなかったけれど、絹物の衣類調度と、胸の宝石貴金が昔のままに残っていた。
 夜の歓迎会は、お牧の茶屋というので開かれた。この眺望は恐ろしく大きかった。大同江を真っ直ぐに下流に見下ろして、既に陽《ひ》が落ちた薄暮のうちに対岸の平野を黙々と飾る灯と、牡丹台の崖にちらつく灯が相対して、ほんとうに幽遠を思わしめたのである。
 宴席に、六、七人の妓生が現われた。二十二、三歳から五、六歳になっているから、妓生学校を卒業してからもう七、八年は過ぎた人達であろう。甚だものなれている。
 真白、淡紅、薄紫、黄などいろいろの上着の下に、長い裳をつけてなよなよとしていた。いずれも五尺二寸以上の上背があって最も高いのは五尺三寸あるという。そして姿態がやわらかく、四肢がのびのびとしているから物腰に無理なところがない。婉美《えんび》というのはこういう女達を指すのではないかと思う。
 中でも崔明洙、韓晶玉というのが、美声の持主であった。内地の芸妓の唄う歌をなんでも唄った。この色と艶と弾力、それをこれほどまでに錬磨した声は、内地の芸妓にも少ないと思った。安来節《やすきぶ
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