いると、沈床のかげから二、三尾の大鮎が追いつ、追われつして、互いに絡まりながら泳ぎ出してきた。そして、沈床の肩の瀬の落ち込みへ突進してゆくのである。いつぞや父から、友釣りというのは、鮎の闘争性を利用した釣りであると教えられたが、では今この沈床のかげから出てきた鮎のように、囮《おとり》鮎と川鮎とが激しく闘ううち、ついに囮鮎に仕掛けた鈎に川鮎が引っ掛かってしまうのであろう、と考えた。
ようやくにして、五寸ばかりの鮎を釣った。雀躍《じゃくやく》して、上流の沈床の上へ取って帰って竿へ友釣りの仕掛けをつけ、この鮎を囮にした。師匠もない、道具も揃わない、俄《にわか》仕立ての友釣りを試みる自分である。手網も、囮箱も、通い筒も持たぬ。魚籠のなかの鮎は掌で捕らえ、そこでそのまま、かねて聞き覚えの通り撞木《しゅもく》の鼻環を鼻の穴へ突き通して、瀬のなかへ放り込んだのであった。長さ二間の鮒竿、川幅はおよそ五間。沈床の肩に立って斜めに上流へ向かい、瀬の吐き出しへ囮鮎を遊ばせた。ぎこちないフォームで待つこと五分間ばかり、だしぬけに竿先が重くなると一緒に、下流へ猛烈な勢いで引いていくものがある。
『やっ、掛かっ
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