た。いまから考えると、まことに旧式な仕掛けの出来であった。
私は、喜んでその道具を蟇口《がまぐち》へ入れ、きのう『猫』で買った鮒竿をかついで、足どり軽く飯泉橋を酒匂川の東岸へ渡った。飯泉橋はいまの小田原行き電車の足柄駅から遠くはないが、その当時と、この頃では酒匂川の様子が、まるで変わっている。
道了大|薩※[#「土へん+垂」、第3水準1−15−51]《さった》の奥から出てくる狩川と、酒匂川とは飯泉橋の上手で合流している。その橋の東の袂に、飯泉村を貫いて流れて出てくる清澄な小川があった。その小川が、酒匂川と狩川の合流点へ注ぐ角に木床工があって、深さ一尺五寸ばかりの巻き返しになっていた。そこに、大小無数の鮎が群れているのを発見して喜んだ。急いで、竿へ毛鈎の道具を結びつけ、抜き足して岸へ近づいた。そして、一尾の囮《おとり》鮎を釣りあげようとして、熱心に鈎を上げ下げして、一時間も辛抱したが、鮎は鈎の方を見向きもしない。場所を替えて、そこから三十間ばかり上流の沈床のかげを試みたが、やはり釣れなかった。
けれど、ためになるものを見た。それは、熱心に川面《かわも》を見つめながら鈎を上げ下げして
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