うに、鯛の釣り方と道具の形とは不可分のものであって、釣り方を大体五種に分けることができる。テンヤ釣り、フカセ釣り、枝鈎釣り、擬餌釣り、延え縄などであるが、これは地方によりまた季節によりいろいろ使いわけている。であるから、各地の鯛釣り場へ旅行してみると、そこには独特の釣法と餌があって、深い興味を惹くものだ。
 春の鯛は、数多く釣れるので面白い。しかし、秋から冬にかけての鯛釣りも趣がある。殊に寒の鯛は、相当鯛釣りを修業したものが志すもので、多くは職業人の独擅場となっているのである。
 元来鯛釣りは、一般の釣りのうちでも高級に属する方であって、いろいろの条件が複雑にできているから、沙魚《はぜ》やセイゴを釣るといったふうに、簡単にはいかない。さらに寒鯛となると、主として大鯛を狙うのである。六、七十尋から百二、三十尋の深い海底へ、糸を垂れるのであるから、よほど辛抱が必要である。
 季節は、寒中の海であるため、随分特志家でないと、寒鯛釣りを志す人は少ない。
 だが、釣った鯛は緋牡丹色の鱗に、金色|燦然《さんぜん》たる艶が光っている大ものだ。釣趣に魅力が伴って、一度この釣りを味わったら一生忘れること
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