この魚の分布は、随分広い。亜米利加《あめりか》の近海にも英国のまわりにもいるという話である。太平洋は日本沿岸至る所に棲んでいて、南は台湾近海、琉球、九州、四国、紀州から東北、雄鹿半島から北海道まで棲んでいる。日本海は北海道から山陰道に至るところどこの海にもまた沿海州から朝鮮の東海岸でも漁獲がある。支那海にも広く棲んでいて、朝鮮西海岸、釜山沖、九州の玄海灘、中支から南支、海南島から佛領印度支那方面にまで分布していて、支那海一帯はトロール船の活躍場所である。
だが、真鯛の産地といえば、昔から瀬戸内海を随一とされ、近年は東京湾の内外が釣り人から認められるに至った。
春になると、瀬戸内海は鳴門と音戸の瀬戸の東西両方から乗っ込んでくる。これを桜鯛と言っているが、鯛は土佐沖の深い海底に一冬を送り、春が訪れると産卵のために内海さしてのぼり込んでくるのである。
いまも昔も、この桜鯛をいちばんおいしい季節であると関西の人は言っているが、これには異論があるようだ。
桜鯛といって人気があるのは、四、五月頃の産卵の季節に最も数多く漁《と》れるからであってその季節が最も美味というのではないらしい。総じ
前へ
次へ
全14ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング