い野菜が不足であるならば、人間は精神的にまいってしまう。
 健康にもよろしくないのは誰が考えても分かっている。はち切れるような健康を持てない。
 農村には野菜が山ほどあるのに、なぜ都会では、これを充分に食べることができないのか。この説明は、簡単だ。
 試みに、私の手もとにある昭和十九年十二月二十日現在の、群馬県青果出荷統制組合発表、青果物関係公定価格表を、一覧してみよう。なるほど、青物は安いものじゃ。
 主なるものを、抽出してみる。いずれも一貫目当たりで、出盛り期の農家が青物組合の買上値段である。
 胡瓜が六十四銭、南瓜が四十五銭、茄子が五十六銭、トマトが六十二銭、大根が十九銭、里芋が五十八銭、葱が五十二銭、結球白菜は四十一銭、ほうれんそう五十銭、莢碗豆八十八銭、きゃべつは四十一銭。
 右の公定値段で、青果組合は百姓の手から持って行くのである。
 次に、女や子供の最も歓迎するところの薯類の値段を書いてみよう。
 馬鈴薯は六月十六日から七月十五日の最も出盛りの時期に三円三十銭、一月から五月までの品が少なくなってから四円四十銭。これは、一貫目当たりではない。十貫目当たりですぞ。つまり、農家は出盛り期に、一貫目三十三銭で売るのである。
 甘藷は十月の出盛りに一等三円二十銭であるが、十一月から一月の腐りやすい時に三円、二等品は二円九十銭と二円七十銭。これも馬鈴薯と同じに、十貫目当たりである。
 そして政府や県、または組合が指定した集荷所までの運賃は農家の負担であるから、値段のうち運賃を差し引いた金が、農家に渡される。また青物の方は、青物組合が斡旋料と称するものを、公定値から差し引いて、それだけの金を農家に渡す。
 皆さん、なんと安いものではありませんか。さつまいもでも、じゃがいもでも、大口開いて大に食うべしである。あまり安いのに驚いてご婦人方よ。よだれを流しながら、眼を回してはいけません。
 だが、ほんとうは都会人の口に入らないのである。まことに安いものだときいて、よだれは流し損、眼はまわし損ということになるのである。
 仮に、農家が茄子《なす》を出盛り期に一貫目青物組合へ出したとする。公定価は五十六銭であるが斡旋料をその二割十一銭二厘というものを差し引かれるから、農家の手に入るには僅かに、四十四銭八厘となるのである。
 そこで私は、農家の人々に問うてみた。
「野菜の公定価
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