淡味口に凉を呼ぶという川鱒とを並べ焙烙《ほうろく》の勝を求めたに対し、その仁は、豚の肝臓を餌にした方を指した。
味は舌の芸術である、というから食品により人々好悪の主観を別にするのは当然であるが、既に定評ある養殖鱒の味覚に正しき判断を得られなかったのは残念である。庖刀を執《と》っては東京第一流の料理人と称されるものが、この通りであるとすれば、市井《しせい》に鍋を傾ける底の料理人の舌の教養も、概ねどれほどであるかが知れよう。
板前は、食品に容の美を整えるを知って、至味の膳を悟らぬ。悲しむべきことと思う。
底本:「釣りにつられて」福武文庫、福武書店
1994(平成6)年10月5日第1刷発行
底本の親本:「垢石釣り随筆」つり人社
1992(平成4)年9月10日第1刷
入力:鈴木厚司
校正:川山隆
2007年8月13日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全3ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング