、所によって鱒の子を『頬長《ほほなが》』とも呼んでいる。そして鱒の子は、山女魚よりも肌に白銀色の光りが強く、腹の方は真っ白であると言っていいのである。また山女魚の鱗は、肌にしっかりとついているが鱒の子の鱗は剥げやすい。それは、塩鮭と塩鱒を見分ける時、鱗の剥げやすい方を鱒であるとするのと同じである。
 ここで指す鱒というのは、昔から日本の川へ海から遡ってきた在来種であって、外国種の鱒ではない。山女魚、鱒の子ではほんとうによく似ているが、親鱒とは直ちに区別がつく。親鱒は形が大きく山女魚は小さいというばかりでなく、肌の色が全く異なっている。親鱒は背が青銀色で腹の方へ白く、紫の艶というものがない。明らかに区別のつくのは楕円形の十三個の斑点が消えてしまっていることで、それだけ親鱒は山女魚に比べて、美しさが劣っていると言ってよかろう。
 箱根山を境として、東の国の山女魚と西の国の山女魚とは、肌を飾る斑点に異なったところのあるのは興味あることである。いずれも魚体の両側に十三個の小判型の斑点があるのに違いはないが、箱根から西の山女魚には小判型の間に朱色の小さな斑点が不規則に散在しているのに対して、関東
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