雪代山女魚
佐藤垢石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)仙水《せんすい》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)夕|陽《ひ》が
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「魚+完」、第4水準2−93−48]
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一
奥山の仙水《せんすい》に、山女魚《やまめ》を釣るほんとうの季節がきた。
早春、崖の南側の陽《ひ》だまりに、蕗《ふき》の薹《とう》が立つ頃になると、渓間の佳饌《かせん》山女魚は、俄《にわか》に食趣をそそるのである。その濃淡な味感を想うとき、嗜欲《しよく》の情そぞろに起こって、我が肉虜おのずから肥ゆるを覚えるのである。けれど、この清冷肌に徹する流水に泳ぐ山女魚の鮮脂を賞喫する道楽は、深渓を探る釣り人にばかり恵まれた奢《おご》りであろう。水際の猫楊《ねこやなぎ》の花が鵞毛のように水上を飛ぶ風景と、端麗神姫に似た山女魚の姿を眼に描けば、耽味の奢り舌に蘇りきたるを禁じ得ないのである。
青銀色の、鱗の底から光る薄墨
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